Artist Statement

人の存在する場所に風景は生まれ、

そして記憶となる。


記憶とは時間の形であり、人である。
それらを記録し、記憶するための地図としての絵画を制作しています。 

​制作について

 日本画技法の大きな特徴は、水も画材であることだと考えています。水が乾く際、絵の具の粒子が引っ張られていくことで引き際に沿って層を形成していきます。ただし、そのまま放っておくだけではきれいな形にはならないので、作為と無作為のバランスをとりながら、美しいと思える形に水を流していきます。大地に雨が降り、土地が削られることで川ができたり、濁流が砂を運んで地形を作るように、気象現象を追体験するように描きますが、それだけではただの絵の具の塊でしかありませんので、自分の中で常に、目の前の絵がどのような風景に見えるか・見えているか、に気をつけながら進めていきます。細密でリアルな風景画は、描き手の意識が強すぎて、風景を見る前にその描かれた場所を見ている描き手の目線や息遣いが気になってしまいます。リアルな風景画からは、人物画に近い生々しさを感じるのです。

自作は抽象画というジャンルに当てはめられるかもしれませんが、より自然に近い見え方の風景画でありたいと思いながら、心象風景として制作をしています。絵を見る人が作者の息遣いや意図を感じるのではなく、その人自身の息遣いや思考をより鋭敏に感じられるような、個性のない風景を描くことが制作のひとつのテーマです。

 

2014年より、「人の風景」と題した展覧会と作品タイトルにて制作を続けています。ここでいう「人」とは作者である私自身のことでもありますし、今はいない身近な人々や、作品を見ている人々のことを意味しています。風景を見て、美しい・怖い・懐かしい・寂しい、などいろいろなことを想起する「人」自身に興味があり、風景を通して人を見たいと考えながらこのテーマを続けています。そうして人について考えるうちに、自分自身が他人であるような感覚に陥りました。ならば逆に、自分自身の選ぶ色や線、形に固執しても生々しい風景画にはならないのではと考えました。そこから、風景を抽出した色や形、模様に主眼を置いた作品を制作するようになりました。日本画絵の具の特性でもあるのですが、立ち位置によって見える光が異なるように、手を入れています。作品は展示する場所の光の当たり方によっても見え方が変わります。絵というものは固形の物質であるので、実際の風景のように変化することは難しいですが、光を変化させることで、日々刻々と変わっていく風景のように印象の変わる作品を目指しています。絵の見え方が変わるということは、見る人自身の変化でもあります。そんな意識や感情の変化についても楽しんでいただければ幸いです。